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THP活動による清掃作業者の体力向上に関する調査研究

調査研究体制
野見山一生: 栃木産業保健推進センター所長
池森 利夫: 上都賀郡南部産業医委員会委員長
一戸  彰: 産業医
朝妻 明美: 鹿沼市市役所衛生管理者
辻野 玲子: 鹿沼市市役所衛生管理者
黒川 和美: 鹿沼市市役所衛生管理者

調査研究結果の概要

1. はじめに

清掃事務所の従業員の作業、殊に収集業務の者は作業が単純であるとともに、前屈姿勢(作業台を高くする事が不可能)と腰の回転を必要とする単純作業なので腰痛が多く、その為運動量が不足し体力低下を起こしているのではないかと考え、体力測定結果から歴年齢と体力年齢を比較して、体力の程度が分かるのではないかと考え、鹿沼清掃事務所で12年間体力測定を継続して実施していたので、その成績を比較検討してみた。

2. 調査方法

調査は体力テスト、1)反復横とび(敏捷性)2)垂直とび(瞬発力)3)握力(筋力)4)ジグザグドリブル(巧緻性)5)急歩4km(持久力)の5種目で、その採点の仕方は各種目の成績より得点を出し、夫々を合計した総点数より体力年齢を出し、歴年齢と比較する。尚5種目の点数を5角形にして経過を見るようにするのと、体力の各種目間のかたよりが分かる。

3.調査成績と考察

  1. 各年齢層 夫々の年度における種目別体力
    • 20才~29才 :

      反復横とび、握力、ジグザグドリブル、年とともに体力が上むいてきた。垂直とび、横とぴは緩やかな上昇をしている。急歩は年とともに急激に下向いているにもかかわらず、総点数はやや上向いている。

    • 30才~34才 :

      前と同じ傾向だが、その上昇の程度が弱いのと、急歩の下向が強い為、総点数は全体的に見て下がっている。

    • 35才~39才 :

      握力、垂直とびは横ばい、急歩はS63より下降し、総点数はS59~S62が非常に高い値を示したが、S56と平成2年以降が低い値を示している。これは急歩の低調の為と考える。

    • 40才~44才 :

      全体的には35才~39才と同様であった。急歩がS63年以降下降したままであるにもかかわらず、その他が良かった為総点数は良好な経過を示しており、S61~S63は殊に高い値を示している。

    • 45才~49才 :

      急歩が低調であるにもかかわらず40才~44才と同じ傾向で総点数が年と共に良くなっている。これも急歩以外が良くなっている為と思われる。

    • 50才~54才 :

      急歩はS63、H2に行われていないので総点数に不確実であるが各種とも全体的に 低いにもかかわらず、得点で年と共に上昇している様にみられる。

    • 55才~59才 :

      全体的に低く、高低の波があるのは参加者が少なく更に参加した人でも全種目を行ったわけではなく、2~3種目しか行っていない人が多かった為と思われる。急歩で比較的高い値を示しているのは自転車通動者が参加した時であった。総点数でS64、H2は参加者が0であった為、表示不能だった。S56~S63はS58を除いて横這いであるがH3、4年は2種目のみで参考にならなかった。

  2. 種目別夫々の年度における年齢別体力
    1. 反復横とび:

      若い者及ぴ中年は年度を追う毎に点数が良くなっているが、50~54才はS58年の異常と思える値を除くと徐々に良くなっている。55~59才は良くなってきたが、64年以降は病者が多くなり、息切れしたと思われた。平均は、高齢者の64年以降不参加の為明確ではないが、ほぼ満足するものではなかろうか。

    2. 垂直とび:

      各年度ともさほどの高低はなく、55~59才でS64~H2の不参加はあったものの全体的にはほぼ同程度と思われた。

    3. 握力:

      若い者は40~44才のS59年を除いて同じ様であったが、50才以上が年毎に上昇した。したがって平均値も少しずつ良くなってきたと思われた。

    4. ジグザグドリブル:

      最初の年は低調であったが全体的に徐々に良くなった。その後S64年より再び低調になった。平均はS64年以降55才以上が不参加であった為やや不明確であるがこの頃より全体的に低下した。

    5. 急歩:

      高齢者で良くなっている年も見られたが全体に低調で、更に年度を追う毎により低調となり若さがなく、皆高齢者なみになった。

    6. 以上5種目を総合した点数では20~34才と45~49才は年度毎に良くなっているが、35~44才はドーム型であり、50~54才はやや良くなっているものの、55才以上は悪くなっている。
  3. 年度別、年齢層別における各種体力

    握力は、S56~H4年迄若い者は良い成績を出しており、高齢者も落ちてはいるが、ほぼ良い成績を出している。したがって平均も良い成績を出している。垂直とび、反復横とぴは、年齢と共に低下している。S64年以降高齢者の点数が低い。S64年は参加者0であった。ジグザグドリブルは、若い者も充分とは言えないが高齢者は殊に悪い得点であり、S64年以降は参加者がいなくなった。急歩は、若い者も低調で年と共に低下しているが、年によっては55~59才で若い者に負けない程であった。私も毎回参加しているが、S63年よりは全体的に非常に低調で高齢者は参加しなくなった。5種を加えた総点数では年齢と共に急速に低下している。

  4. 各年度各年齢層における対象人員及実施した人員とその差

    S56・57は全従業員が新しい企画に物珍しさと期待をかけていた為、病気で休んでいる人以外は全員この測定に参加した。第1回の為、とまどいながらみられたが、その後は40~44才の中だるみと55才以上の高齢者に出勤していても高血圧、心疾患病等でこの測定に不参加が見られる様になった。平成になってからこの傾向は益々増大してきて下降するこの傾向は改善されなかった。55才以上は殆ど参加せず、各年齢層共歩は他の項目に比し参加がやや少なめであり、殊に高齢者は顕著であった。体力測定を行った全員に、個人毎に、図の如く反復横とび、垂直とび、握力、ジグザグドリブル、急歩、の5種目の夫々の成績を5角形にプロットして、体力の程度と偏りを一目で見られる様にした。更に5年間体力年令を記入し、これを参考にして、体力の保持、増進の励みになる様にと願って作成した。


    高齢者、中間層及若年者で、特徴的な例を提示する。

    高齢者でAは55才、一般作業員で握力以外は低調であった。高齢者は殆どがこの様な形であった。

    一方B56才は指導的立場の人で、高点数を出すわけではないが、全体的にそこそこの成績を出していた。しかも各地のマラソンに出場しているので、急歩は殊に良い成績であり、体力年齢はAに比較し尚若くなっていた。

    Cは41才中間管理者職で5種目全てに良い成績であった。体力に余裕がある為か仕事の方も円滑に、上下関係もそつなくこなしていた。余暇にスキーの指導員を行っていた。

    D・Eは22才、23才で体力はあるのだが、努力をしない人は非常に変形しているが人並みにやっている人は変形の度合いが少なかった。


    各年度及ぴ年齢別の成績を5角形にしたが、平均するとそれほど特異な形を示さなかったので省略した。


    1. 20~29才では初め5年位は平均してほぼ零だがその後は(+)が多くS56よりH4年迄を合計すると+21.6才になっていた。
    2. 30~34才では+-同程度で経過し、合計では+42才であった。
    3. 35~39才ではS56年から平成4年迄は全体的に(+)で殊にS59年からS62年迄は非常に体力年齢が歴年齢を上回り12年の合計で66.1才体力向上していた。
    4. 40~44才はS56~58年迄は体力年齢は歴年齢より低かったが S60年よりH4年迄では体力年齢が歴年齢を大きく上回り、合計では33.8体力向上していた。
    5. 45~49才で4. とほぼ同じ様な経過で合計は33.2才体力向上していた。
    6. 50~54才はS56~S60迄体力が年齢以下であり、その後は体力年齢が止まっているが程度が低い為12年間の合計では約3才とやや体力が歴年齢にまさっているにとどまった。
    7. 55~69才はS64から3年間各種目への参加不充分で得点計算不能であった。その他の年度における得点は零を前後し、合計も零であった。
  5. 4.考 察

    12年間体力測定を行ってみて握力は若年者で開始してから最近まで全経過中ほぼ良い得点を獲得している。高齢者は回を重ねる毎にやや良くなっているが総計では、ほぼ同じ得点であった。若年者の反復横とび、垂直とび、ジグザグドリブルは以前も今もほぼ同じ得点であるが、中間層はなれてきた為やや良くなっている。高齢者も同様の理由で回を重ねて良くなっているものの、55~59才ではS64年以後、病人(循環器系及ぴ腰痛)が多くなった為参加者が少なくなり、有意のデータとは言えない。問題はこの病人の発生することに注目しなければならない。成人病又は作業関連疾病の発生を抑制し、健康保持増進しなければならないのに、休み時間も仕事修了後も早々に風呂に入って、その後の時間をTHPに有意に過ごさず、雑誌・マンガ等や将棋で椅子に座っていて体を動かそうとしないのでは、良い結果は得られない。急歩で、若年者は回を重ねるごとに低下し、体力と言うよりもやる気の問題だと思う。中間層で一時良くなるが、S63年以降は低下している。高齢者も同様の傾向であるが、年によって良い得点を出しているのは、自転車通勤の人が高得点を取り全体を押上ている。それも年毎に車通勤となり、あるいは息子や嫁の通動の際同乗させてもらう様になり、運動不足の為低得点となっている。したがって総計も同様の傾向である。各年度、各年齢層における対象人員及実施した人員とを比較してみると、開始した頃は参加者も程々にあったが、平成になってからは、不参加者が多くなってきてテストヘの熱意が低下してきた。体力年齢と歴年齢と比較してみると、S56~S59年は全体的にみて歴年齢に比較して体力が落ちている。その後は上昇し35才~44才迄は16才~17才体力年令が上回っている。急歩が低調を極め、中だるみになったが、それでも0才~10才位体力が上回り、合計では20才~29才・35才~49才は非常に体力年齢が上昇し平均でも約13才若返っている。

    5.結 論

    握力は年毎とに少しずつ良くなっており、垂直とび・反復横とびはやや上昇しているが、全体的にはもう少し良くならなければと思う。ジグザグドリブルも同様であるが、高齢者に参加不能者が多くなっている。急歩に至っては各年齢層ともS63年より急速に下降した。惨憺たる低得点であった。

    THPがさけばれて表面的には少しずつ良くなっている様だが、内容からみると「笛吹けども踊らず」といった状態であろう。高齢者のテスト参加者の減少あるいは零になっているのは、成人病及び作業関連疾患が増加し、半病入から病人が増えている為と思われた。

    急歩は疲れるから適当に歩きましょうでは、どうしたらTHPが行えるのか? 年によって高齢者に急歩で良い得点がみられたことがあったが、これらは自転車通勤者で、とりわけ運動をしているわけではないが、若い者には負けない得点を出していた。

    日頃の運動を良くやっていれば、体力測定の成績は良くなると考えられるが、どうすれば運動をするように仕向けられるのかが問題であった。

    年2回、衛生教育をやっており、その都度健康保持増進や作業関連疾病について話しを追加していたのだが、効果はみられず、体力測定の結果は、考えていた程は良くなかった。

    働く人々の健康の保持・増進には、THP活動の推進が不可欠のものと考えるが、働く人々が自分自身の健康の保持・増進のために、日々のTHP活動がいかに大切なものであるかを、働く人々に如何に認識させるかが重要な問題であり、産業保健関係機関・関係者との連携を図りながら、事業者・労働者の産業保健の意識の高揚に努めなければならない。

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