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「口腔から始まる全身の病気」 (4月: 阿部哲夫 相談員)

 近年歯周ポケット内を中心とした口腔内細菌が全身の健康を脅かし、生命さえ危うくするというエビデンスが蓄積されてきました。医療関係者だけではなく一般の方々も循環器疾患への関与、誤嚥性肺炎の起因性、口腔慢性感染症が1次病変となって2次的病変を発症させることなど健康談義の中でも話題に上っているようです。またメタボを気になさっている方の中には、口腔細菌が肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームに関わりがあることをご存知の方もいらっしゃるようです。
 このような病気の起こり方が「病巣感染」と呼ばれます。病巣感染(歯性病巣感染)は今では認知され科学的根拠が示されていますが一時は否定された考え方でありました。身体のある部分に感染した細菌が別の場所に移るとき、その過程が病巣感染と呼ばれます。
 フランク・ビリングは1912年に病巣感染の95%以上が歯と扁桃からなることを述べています。今では扁桃の炎症と腎臓障害の関連が話題になり、扁桃と歯が病巣感染の90%を占めるといわれていることを考えれば驚愕すべき先見性です。
 病巣感染の研究の先駆をなした人が、歯科医師のプライス博士でした。彼は1923年(大正12年)に「歯牙感染 口腔と全身」第1巻、「歯牙感染と退行性疾患」第2巻を著しました。彼はこの研究に25年の歳月を費やしたようです。
 彼の研究方法は、抜歯をして患者を帰した後すぐに歯をウサギの皮下に埋め込む、又は歯から取り出した細菌を培養してウサギや他の動物に注射し経過の観察をしました。
 結果はほとんどの場合ウサギには患者と同じかあるいは類似の疾患が生じた。感染による影響は非常に大きく、3~12日で死んでしまった。患者が腎臓に問題を持っていればウサギの腎臓に問題が起こり、患者の眼に問題があれば、ウサギは眼の病気になった。心臓の異常、関節炎、胃潰瘍、卵巣の病気、膀胱感染症、静脈炎、骨髄炎、ありとあらゆる病気にウサギは同様に感染した。ウサギは免疫機能が弱いため短期間で症状の発現が現れる。
 プライス博士の重要な発見は歯に侵入した細菌は、がん細胞が身体のほかの部分に転移するのによく似た挙動を示す。「歯の構造内部の細菌はどんな臓器,腺、身体組織にも感染し更に妊婦にも危険を及ぼす」。この研究結果は現代の知見と全く同じものと思われます。歯のむし歯や感染は一般的なことなので80年近くこの研究が脚光を浴びず、今漸く歯の感染が多くの内科的疾患を引き起こすという事実を知り得たということではないでしょうか。
  *引用文献 むし歯から始まる全身の病気

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