- 調査研究体制
- 松本 兼文: 栃木産業保健推進センター所長
宇佐見隆廣: 栃木産業保健推進センター相談員
森 昇二: 栃木産業保健推進センター相談員
木村 一元: 獨協医科大学情報センター部長
山根 則幸: 栃木県保健衛生事業団事業管理部長
小林 一美: 栃木産業保健センター副所長
神永 成: 栃木県保健衛生事業団
木村 高幸: 栃木県保健衛生事業団
調査研究結果の概要
1.はじめに
産業界の担い手となっている、50人未満の小さな事業所は大きな事業所に比べ、労働衛生の管理体制なとが十分でなく、定期健康診断の施行も、小さな事業所ほど、その実施率が低率となることが、指摘されております。
私共は健康診断の届出義務のない、小さな事業所に働く人達の、健康や傷病状況に、何か特徴はないか、従業員規模別に比較検討を行いましたので、その成績を報告させていただきます。
2.対象と方法
対象と方法についてですが、栃木県の保健衛生事業団が、継続的に定期健診を実施している、職域団体1,237事業所の、平成10年度の受信者、61,781名を対象者といたしました。 それぞれの事業所の業績は、国勢調査用の産業分類に準拠して、製造業や建設業など17に分類いたしました。 従業員規模は49人以下、50人以上、100人以上、300人以上、1,000人以上の5区分に大別いたしました。 また、問診から生活・労働強度や飲酒・喫煙など7要因を、検査成績から、血圧値や生化学検査値など、20項目を採取いたしました。
解析は規模別に行いましたが、規模間にみられる年齢構成の差異をくため、マンテル・ベッツェル法を用いて補正を行ない、それぞれの所見頻度を、男女ごとに算出いたしました。 また、これら補正した、年齢調整頻度を用いて、各所見のオッズ比を求め規模間におけるLinear trendをマンテル・エクステンション法を用いて検討いたしました。
3.結果と考察
- 対象事業所の規模と業種
結果についてですが、対象事業所の規模と、その業種の割合をみますと49人規模が約79%と最も多く、次で、50人規模が9%、100人規模が8%、300人規模が3%、1,000人規模が最も少なく約1%で、当然のことながら、従業員の規模が小さくなるほど、事業所の数が多くなるという傾向がみられております。 また、業種は製造業が約26%と最も多く、次で卸売・小売業が17%、建設業が14%を領し、これら3業種で全体の過半数以上を占めております。
- 生活・労働強度と飲酒・喫煙の状況
次に、これら就労者の、日常の生活習慣に関わる状況についてですが、生活・労働強度の「やや重い重い」の出現率は男子で約13%、女子で約6%で大量飲酒の「毎日飲む・毎日3合以上」は、男子で約34%、女子で約4%の頻度が得られ、大量喫煙のブリンクマン指数の400以上は、男子で約44%、女子で約3%の出現率がみられております。
これら3者の出現率は、男女とも、1,000人規模に比べ49人規模に、その出現率が高く、それぞれのオッズ比も、規模が小さくなるにつれ増大するという、linearな傾向が認められました。
- 既往症の状況
次に、既往歴の状況ですが、採取した既往疾患は高血圧など、生活習慣病の他に、腎臓病や結核など12疾患です。 この12疾患のいずれかを既往にもつ就労者は男子で約16%、女子で約18%みられましたが、1,000人規模に比べ49人規模就労者には低頻度の傾向がみられております。
また、この傾向を疾患別にみますと、狭心症は男子に、貧血は女子に、高脂血症は男女ともに、49人規模就労者に低頻度の傾向がみられました。
- 各検査所見の状況
次に、各検査所見の状況についてですが、それぞれのcut off値と、その出現率を抄録の表1に掲げてございますので、ご参照ください。
大規模就労者に比べ、小規模就労者に高頻度にみられた所見は、収縮期性高血圧、肝機能低下、耐糖能低下などで、男子は、これに、高脂血症と高尿酸傾向が、女子には肥満傾向が加わります。
また、大規模就労者に比べ、低頻度の傾向がみられた所見は、男子の拡張期性高血圧と女子の貧血(RBC、Hb、Ht)のみでありました。
さらに、抄録にも示しましたが、これら多くの所見のオッズ比には、規模間で linearな傾向がみられております。
表1 各検査所見頻度の比較 *:P<0.05 ** :P<0.01 検 査 項 目 所 見 頻 度 (%) cut off 値 男:小規模 男:大規模 女:小規模 女:大規模 やや重い・重い 25.0** 5.6 7.6** 4.4 毎日飲む・毎日3合以上 36.4** 32.1 4.5** 3.2 BI>400 54.2** 35.7 4.8** 1.1 既往疾患いずれかあり 15.5 17.2** 16.4 19.4** 狭心症 0.4 0.8** 0.3 0.4 貧血 0.7 0.8 7.0 8.8** 高脂血症 1.6 3.0** 1.5 2.8** BMI>25 25.7 26.0 15.2** 9.4 SBP≧160 3.5** 2.1 1.6** 1.0 DBP≧95 4.6 5.1** 1.3 1.4 RBC<410(380) 1.5 1.1 3.0 4.5** Hb<14(12) 7.7 7.6 17.2 19.2* Ht<38(36) 0.6 0.5 12.2 14.9** GOT>40 6.3** 4.8 1.3 0.9 GPT>35 22.2 20.3 4.4** 2.7 γ-GTP>62(37) 10.3** 7.1 2.8** 1.8 TG>150 30.6** 25.6 6.9 6.1 HDL<40 14.7** 12.3 2.0 3.5* FBS>110・PPBS>140 10.4* 8.8 3.8** 1.8 UA>7.2(5.2) 17.5** 13.1 15.8 16.4 有所見 56.3** 53.7 39.4 40.8 オッズ比 1.12 0.92 95%CI 1.05~1.19 0.84~1.01 有所見・製造業 56.1** 37.6 44.1** 19.7 オッズ比 2.36 5.32 95%CI 2.11~2.65 4.05~6.99 %:年齢補正頻度、 小規模:49人以下、 大規模:1,000人以上 - 有所見率の状況
最後に、これらBMIからUAまで、20項目のいずれかに、所見のあった者を、「有所見者」として、その頻度を求めてみますと、男子は約52%、女子は約39%の出現率で、業種が最も多かった、製造業にかぎって、その頻度をみますと、男子の成績は抄録の図1に示しましたが、その出現率は、約44%、女子は約32%で、小規模就労者に高頻度の頃向がみられてあります。
以上の成績をまとめますと、小規模事業所の就労者は、生活・労働強度が強く、大量飲酒・喫煙者が多く、収縮期性高血圧、肝機能低下、耐糖能低下などの所見の多いことが推定されました。
また、男子には高脂血や高尿酸傾向が、女子には肥満傾向の所見も多く、大規模就労者に比べ「有所見」頻度の高いことが推定されました。