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有職女子の生活実態とその健康度に関する研究 -専業主婦との対比成績から-

調査研究体制
松本 兼文: 栃木産業保健推進センター所長
宇佐見隆廣: 栃木産業保健推進センター相談員
土屋 博之: 栃木産業保健推進センター相談員
岡本 親整: とちぎ健康の森管理センター所長
木村 一元: 獨協医科大学医学情報センター部長
加藤 則子: とちぎ健康の森管理センター
篠原 良一: とちぎ健康の森管理センター

調査研究結果の概要

1.はじめに

有職女子の就労は生活維持の手段とも解されるが、同時に社会参加、自立、自己実現の有力な手段ともなっている。これら有職女子の健康確保については、日常生活における健康行動の実態・評価・調整をぬきに、その効果を求めることは困難で、生活・労働・余暇もふくめ生活全体のなかで、そのあり方を考えることの必要性が強調されている。有職女子の体力・健康に日頃の就労・生活様式がどの様に関わっているか、専業主婦との対比成績から、その健康影響を明らかにすることができれば、就労女性の健康支援方策に十分に資することが期待される。

2.対象と方法

平成9年度の「とちぎ健康の森」の健康度測定受検女子1,655名のうち、問診・検査情報に欠測値のない者を選定し、有職女子733名、専業主婦452名を解析対象者とした。

解析に用いた主な情報は日常生活・食生活状況の成績と運動機能検査・医学的検査の成績で、運動機能検査の判定成績から総合体力水準の指標を、医学的検査の機能別判定成績から総合健康水準の指標を作成した。これらの成績を有職女子と専業主婦で対比観察したが、その頻度差には・2検定を、平均値の比較にはt検定を用い、その有意水準を危険率5%以下とした。

また、作成した総合指標の解析にあたっては、体力水準の「低い・やや低い」、健康水準の「不良1~4」を求め、各要因ごとに年齢調整相対危険度・オッズ比を算出し、その量・反応関係をMantel-Extension法を用いて求め、各要因の寄与程度を数量化・類を用いてレンジと偏相関係数から観察した。

3.結果と考察

  1. 有職女子に高頻度にみられた要因

    専業主婦に比し、有職女子に高い頻度が観察された日常生活要因は、休息が殆どとれない・時々不足する59.0%、時々疲れが残る65.3%、平日に自由に使える時間は2時間以下58.6%、汗ばむ仕事や運動が39分以下75.9%、継続的運動なし61.8%、現在喫煙している11.4%などであった。

    また、食生活では摂取不足として、大豆製品40.9%、乳製品46.3%、緑黄色野菜59.4%、米65.4%、いも42.6%、カルシウム26.4%、鉄44.3%などの不足が、さらに自覚症状では目が疲れる48.1%、手足のしびれ・麻痺10.1%、などの年齢調整出現頻度が専業主婦のそれを有意に凌駕していた。

    これら有職女子に特有な慢性的疲労状況や食品・栄養の摂取不足状況は、就労環境や労作負担あるいは家事負担の有無もあろうが、専業主婦に較べ自由時間の少ないことからくる、生活上の時短・歪みが反映された結果と考えたい。

    専業主婦に較べ時間的な余裕のなさが、貴重な時間の有効利用に繋がっている側面は否定できないが、疲労感はからだが発信する赤信号とも考えられるので、仕事と休養の時間的バランスの調整が要請される。

  2. 有職女子の体力水準とそれに関わる要因

    有職女子の体力は専業主婦に較べ、その構成要素となっている平衡性、筋持久力、筋力、瞬発力、心肺持久力の水準が有意に高く、また、これら運動機能検査成績7項目を用いて作成した総合体力水準分布をみると、「やや低い」の頻度が有意に少なく、「やや高い」の頻度が有意に多いことから、有職女子の体力水準は専業主婦に較べ良好であることが推定された(図1)。

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    また、有職女子の体力を低減させる要因として、大豆製品・乳製品・その他の野菜・カルシウムの摂取不足、胸痛・手足のむくみ、物事に熱心になれない、腎機能・耐糖能の要精検、現病の糖尿病や肥満に有意なオッズ比と量・反応関係をみたが、レンジ・偏相関係数から自由時間の多少や運動実践の関与も大きいことが推定された。

    定期・継続的な運動を有する者の心肺持久力が高いことはよく知られているが、その低減リスクには運動実践の有無だけでなく、食生活要因をはじめ生活習慣が緊密に関わる健康不調要因が示唆されたことから、就労女性の体力の維持増進には、適度で持続的な身体活動を生活のなかに取り入れ、生活習慣を好ましく変容する自己管理行動が要請される。

  3. 有職女子の健康水準とそれに関わる要因

    医学的検査で正常範囲外の「要観察・精検・治療」とされ、その頻度が5%を凌駕する機能別判定の主なものとして、血圧24.4%、肥満51.0%、脂質51.4%、貧血8.7%、耐糖能6.3%、尿潜血24.7%が挙げられた。これらを年齢調整出現率をもって専業主婦と対比して高い傾向がみられた。また、これら機能判定11項目を用いて作成した総合健康水準の分布を専業主婦と対比してみると、「良好」の頻度が有意に多く、「不良3」の頻度が有意に少ないことから、有職女子の健康水準は専業主婦に較べ良好であることが推定された。また、有職女子の健康を低減させる要因として、生活リズムが不規則、気分転換・常も何か気になる、その他の野菜の摂取不足、果物・エネルギーの過剰摂取、柔軟性・全身持久力が低い、などにオッズ比の大きい傾向をみたが(図2)、レンジ・偏相関係数からアルコール摂取の関わりも推定された。

    graph_19980101_1-2.gif

    これら有職女子の健康低減リスクをみると、栄養と運動と休養のバランスのとれた生活・就労スタイルの確立が基本となる。自分の健康は自分で守り・つくるといった自分健康学の確立と、それを支援する環境づくり、個人と職域の役割と責務を改めて強調したい。

4.おわりに

以上の成績より、有職女子は専業主婦に較べ、愁訴・健康不調は少なく、体力・健康水準は良好であったが、その日常生活に時間的なゆとりがなく、生活リズムの不規則や食品・栄養の摂取不足と過剰が、体力や健康水準を低減させていることが明らかとなった。

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