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産業保健活動を支援するための方策立案に関する調査研究(大田原地区)

調査研究体制
野見山一生: 栃木産業保健推進センター所長
阿部 敏夫: 大田原地域産業保健センター所長
小泉桂四郎: 大田原赤十字病院院長
斎藤 平三: 栃木産業保健推進センター副所長
野見山紘子: 自治医科大学衛生学教室講師

調査研究結果の概要

1. はじめに

平成7年度に発足した大田原地域産業保健センター管内にある従業員数が10~99人規模の事業場の産業保健の実態について、 アンケートによる全数調査を行い、産業保健サービスの現状と問題点、さらに、今後、どのように解決してゆくべきかについて検討した。

2. 調査方法

大田原地域保健センター管内の従業員数が10~99人の事業場名簿を、最新の情報源である昭和63年度栃木県事業所年鑑を用いて整備し、 平成7年8月に1,634ヶ所の事業場に、別紙の調査用紙に着払い返信用封筒をつけて発送した。 所定日まで未回答の事業場には電話で督促し、計164ヶ所の事業場から回答が得られた。 従って、最終有効回収率は10.0%であった。

3. 調査成績と考察

  1. 衛生管理体制
    1. 衛生担当者:

      衛生担当者は40%程度しか決められていなかった。 無回答の事業場には衛生担当者がいない可能性が高い。 50人未満の事業場におかれる筈の衛生推進者も、30人未満の事業場では28%、30~49人の事業場では53%、衛生管理者を選任すべき50~99人の事業場では79%、100人以上の事業場では選任率は100%であった。

    2. 衛生委員会:

      設置義務のない50人未満の事業場でも14%に設置されていた。 設置が義務づけられている50人以上の事業場の設置率は76%であった。 無回答であった事業場には設置されていないと考えれば設置率は数%程度であろう。

    3. 産業医:

      産業医の選任率は、50~99人の事業場79%、100人以上の事業場100%で、 平成5年度に調査した宇都宮地域(50~99人の事業場37%、100人以上の事業場71%、 野見山ら、1994)より遥かに高かった。 選任された産業医の事業場訪問回数は30~49人、50~99人の事業場ともに夫々年間4、9回であった。

  2. 作業環境管理
    1. 作業環境測定の精度管理:環境測定機関を選定した理由は「安価である」ことではないことが分かった。 小規模事業場といえども、必要経費は支出する。しかし、「信頼できる結果を出して欲しい」としていた。
    2. 作業環境改善費用:これまでに作業改善をした事業場は15%で、宇都宮地域の27%(野見山ら、1994)に較べ著しく少なかった。
    3. 職場環境改善の主たる提唱者は役職者:環境測定機関28%、 役職者24%、 次いで作業者自身16%、 作業主任者12%であった。宇都宮地域(野見山ら、1994)と比較すると環境測定機関が多く、大田原地域の産業保健活動は未だやや受動的であるように思われた。
  3. 作業管理

    作業条件改善の提唱者は役職者と現場主任クラス:

    有害作業のある事業場のうち24%が作業改善をしていたが、宇都宮地域の34%(野見山ら、1994)に較べると少なかった。 作業条件改善の提唱者は役職者、作業主任者がほぼ1/3ずつであったので、役職者のみならず作業主任クラスの啓蒙が必要であることが分かった。

  4. 健康管理
    1. 定期健康診断:

      10%の小規模事業場で定期健康診断が充分に行われていなかった。 ことに50人未満の事業場に問題があるように思えた。 巡回健康診断機関に定期健康診断を受けているところが多い(55%)が、 地域の診療所や病院に定期健康診断を依頼しているところも少なくない(30%)。 定期健康診断機関選定理由は「安価である」が殆んどなく、「他からの紹介」、 「近所で受診できる」、「信頼がおける」が71%を占めていた。 定期健康診断で異常の見出されたものの割合は7.4%であった。 これらの作業者の健康管理や健康指導は、作業者自身の主治医に任せる小規模事業場が78%にも上っていた。

    2. 特殊健康診断:

      年に2回の特殊健康診断が殆んどしないか2年に1回の事業場が66%で、 宇都宮地域の53%(野見山ら、1994)より高かった。 特殊健康診断機関は巡回健康診断機関が76%で一番多かった。 異常率は7.4%で、平成6年度の全国平均3.6%の2倍であった。 今後、環境管理、作業管理を徹底させ、また、特殊健療診断を定期的に実施するよう指導する必要があろう。異常者の健康管理や事後措置は「作業者の主治医に任せる」事業場が2/3で、事業者、役職者の職業性疾病に対する認識が著しく低いと推測された。 職業性疾患の予防やアフターケアーに事業場の産業医が関わっていないのは大きな問題で、 「今後の事業者、役職者に対する啓蒙」は大田原地域産業保健センターの最重点課題となろう。

  5. 事業場は地域産業保健センターに何を期待するか
    1. 事業場が希望する地域産業保健センター事業の場:健康相談、衛生教育、環境管理・作業管理の助言を得る場は 「個々の事業場」が半数、次いで地域産業保健センターが1/3であった。 健康教育の場も個々の事業場が半数以上で、大田原地域産業保健センターは1/3であった。 環境管理・作業管理の助言も他の産業保健サービスを受けたい場と同じであった。 以上の結果から、当面は「事業場の個別訪問」を最重点事業とすべきと考えられた。
    2. 個別訪問サービスの内容:返事をした事業場の半数が産業保健サービスを受けたいといっているので、 当面の間、これらの事業場に限定して個別訪問事業を展開するのが最も効果的で、 事業場の関心の高い健康診断結果の事後措置、健康相談、成人病予防、 また、疲労・ストレス対策、健康づくり、高齢化対策、快適職場づくりなど作業者の健康管理を中心テーマとすべきで、 安全衛生情報、労働衛生管理体制の整備、作業環境・作業方法の改善などの産業保健の基本的事項は事業場との人間関係が確立してから行うのが実際的であるように思われる。
    3. 窓口サービスの内容:市街地から多少離れた総合文化会館内大田原地域産業保健センターに足を運んで 相談窓口を利用するという事業場は42%に過ぎなかった。 希望する相談内容で最も多かったのは健康診断の事後措置で41%、次が「疲労・ストレス対策」と「健康づくり」であった。 今回の調査で、労働衛生管理体制、作業環境改善、作業方法の改善などの基本的な産業保健活動を望む事業場が少なかった。 地域産業保健センターによる「小規模事業場の産業保健に対する認識を高める」今後の努力が必要であると強く感じた。

4.結果と考察

  1. 大田原産業保健センター管内の小規模事業場の調査を行ったが、有効回答率が極めて低く、産業保健に対する理解が低いことが分かった。
  2. 衛生推進者、衛生管理者の選任率は100人未満の事業場では事業場規模にかかわりなく数%程度と推定された。衛生委員会の設置率も低かった。 小規模事業場経営者の啓蒙が現時点で最重要課題と考えられた。
  3. 健康診断、作業環境測定機関の選定理由は『安価である」ことではなく、「信頼できる」が多かった。
  4. 職場環境・作業方法改善の主たる提唱者は役職者、次いで作業主任者であり、 役職者や作業主任者を対象とした産業保健に関する啓蒙活動を積極的に展開する必要がある。 また、作業環境の改善費用に公的助成や融資制度を利用した事業場は殆んどなく 労働基準監督署や地域産業保健センターの指導強化が望まれる。
  5. 定期健康診断が年に一回、特殊健康診断が年に2回実施していない事業場が少なくなかった。 また、健康診断結果の異常率が高かった。 「事後措置は地域内のかかりつけ医師に頼みたい」と考えており、総合的な地域健康管理システムの確立が必要と考えられた
  6. 事業場の希望する産業保健サービスは健康診断結果の事後措置、健康相談、成人病対策であった。 地域産業保健センター事業は個々の事業場でして欲しいという希望が多かった。 従って、当面は事業場の個別訪問で健康管理に力を入れ、事業が定着した時点で相談窓口を増やし、 労働衛生管理体制の確立など産業保健の基本的事項へ発展させるのが実際的であろう。

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