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「聴き役」 (7月: 箕輪真理 メンタルヘルス促進員)

卒寿を迎えた祖母が昨年8月に脳梗塞で倒れた。当初は「年が越せないかも」と感じる程の病状だったが、入院4か月、その後介護老人保健施設に4か月お世話になり、今は特別養護老人ホームに入所し、ある程度安定した日々を過ごしている。
 診断で主治医から言われたことは、「これから認知症が進むことが予想されるので、頻繁に面会に来てどんどん話をして欲しい」ということだった。産業カウンセラーの有資格者として思い浮かんだのは、「傾聴」。
 祖母と一緒に生活をしていた日々を振り返ると、生活時間の違いや日々の忙しさに甘えて、日常会話らしい会話は用件のみの味気のないものだった。ある時、祖母が入居施設で「もう少しで庭のミヤコワスレが咲く頃だなぁ」と言った。しかし、私は花の名前すら初耳で全く花を想像することができなかった。祖母がきれいに手入れをしていた庭について、話したり聴いたりをしてこなかったためだと恥じた。手入れができなくなった今は、庭の様子を家族から聴いたり、その時の季節の庭を想像するのが楽しみだという。
 時には祖母から弱音、苛立ち、焦り、愚痴や文句を聴く日もある。聴き役としては、マイナスな感情でもどんな些細なことでもいいので、その日、その時に思うことをありのままにどんどん話して欲しいと思う。一番心配になるのは話す気力がない日だが、季節の変わり目や気温の変化に敏感な体調を思うと仕方のないことで、そんな日は長居をせずに施設を後にするようにしている。
 この1年弱の間に祖母の生活環境は激変し(発病の前日まで畑仕事をしていた)、様々なストレスを受けていることは容易に想像ができる。また施設での集団生活では、祖母なりに「職員さんに迷惑をかけたくない」「職員さんが優しくしてくれるから頑張らないと」等、我慢していることもあるようだ。しかし、それが祖母のプライドでもある。
 身体の自由が利かないため、ストレスを発散できる方法はあまり多くはないが、家族と話すことでその時だけでも、気持ちが楽になればと思う。今の私にできることは面会での聴き役だけしかなく歯がゆい思いも強いが、「来てくれてありがとう」「また来るね」という会話をできるだけ多く続けていきたいと思う。

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