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「旬の暮らし」 ( 6月: 倉富靖子 相談員 )

 5月の連休、光琳が描いた国宝の屏風絵「燕子花(かきつばた)屏風」と「紅(こう)白梅(はくばい)屏風」をみるために南青山の根津美術館を訪れました。今年が尾形光琳300年忌にあたることから50年ぶりに2点が同時に展示されるとあって、多くの方が訪れ大賑わいでした。
 この美術館には、幾つかの茶室を配した美しい日本庭園があり、この時期は咲きそろった杜若の群生と青もみじが美しく心が癒されます。「燕子花屏風」は根津美術館の所蔵ですが、展示されるのは杜若が旬の時期で「新緑のあやめ咲く季節に光琳に会う」という趣向のようです。
 「目には青葉山ほととぎす初鰹」「夏も近づく八十八夜...」「風薫る...」など、この季節は本当に五感を満足させてくれるものが多く楽しみです。最近は街中では見ることが少なくなり寂しいですが、渡ってきた燕が人家の軒先に巣作りを始める時期でもあります。燕はハエ、アブなどの害虫を餌として、人近く子育てをすることから人々に愛され見守られてきた益鳥ですが、空を切って飛ぶ姿もまた見事です。
 燕が子育てを始めるころ、人は端午の節句に菖蒲湯を立て、粽を食べて、子らの幸せを願います。青空を悠々と泳ぐこいのぼりには最近はめったに会えないものの、菓子屋の店頭に粽や柏餅が並ぶとそろそろ節句の季節と気づかされます。新茶、初鰹など食の楽しみも多い季節です。
 日本人は移りゆく季節のなかで旬の暮らしを大切にし、また楽しんで心豊かに暮らしてきましたが、最近は旬を大切にする暮らし方が薄れてきたように思えます。私自身も子育てや仕事で旬を楽しむことをおろそかにしがちでしたが、祖父母や両親がそれをなんとか補ってくれていました。年を重ねて周囲を見回す余裕ができてきたこの頃、旬の暮らしをする大切さとそこから得られる心の豊かさを思うようになりました。それぞれの旬は年一回のこと、心にとめていきたいと思います。
 

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